0→1の新規事業・プロダクト開発とPMF後の事業・プロダクト開発は、考え方ややるべきことなどさまざまな要素が大きく異なります。特にAIの進化に伴い、0→1の新規事業・プロダクト開発の在り方は大きく変化しています。成功確度を上げるには、PMF(プロダクトマーケットフィット)後とは異なる、0→1特有の考え方や抑えるべきポイントを正しく理解し、適切にチャレンジすることが不可欠です。本イベントでは、新規事業・プロダクト開発の専門家としてSEREAL株式会社 代表取締役 安達誠寛氏、株式会社ヌーラボ 代表取締役CEO 橋本正徳氏、ホライズンテクノロジー株式会社 代表取締役CTO 大谷祐司の3名をお迎えして、新規事業の成功確度と速度を上げるための立ち上げ方を具体的な事例を交え、トークセッション形式でお伝えします。※本記事は、2026年3月9日(月)にCIC FUKUOKAにて開催されたセミナー「成功確度と速度を上げる新規事業・プロダクトの立ち上げ方」の様子をまとめております。 登壇者紹介安達 誠寛(SEREAL株式会社 代表取締役)福岡でスタートアップを創業した経験を原体験に、創業からPMFまでに特化したスタートアップスタジオSEREALを設立。PMF達成率3%・達成期間3年という業界の壁に対し、達成確度と速度を高めるためのスキルとナレッジを構築。共闘・共創・創業・投資の4軸で良質なスタートアップを量産する独自モデルを展開している。橋本 正徳(株式会社ヌーラボ 代表取締役CEO)演劇やオープンソース活動など多彩な経験を経て、2004年に福岡でヌーラボを創業。現在は、チームのコラボレーションを支えるSaaSの開発・運営を行う。ミネルバ大学リーダーシッププログラム講師も務める。神戸大学・吉田真理氏からは「天然のエフェクチュエーター」と称され、資金調達を最小限に抑えながら事業を成長させ、グロース市場上場を果たした。大谷 祐司(ホライズンテクノロジー株式会社 代表取締役CTO)リクルート、サイバーエージェント、パーソルキャリアなどで新規事業開発に携わったのち、2022年に福岡でホライズンテクノロジーを創業。現在20社以上の新規事業を支援し、「システムを作るだけ」ではなく、事業視点と技術視点を一体で持つパートナーとして各社の立ち上げ・グロースに伴走している。成功と失敗を分ける「成功の定義」と「市場選択」橋本:お二方は数多くの新規事業に携わっていらっしゃいますが、成功する事業と失敗する事業では、何が異なるとお考えですか。安達:まず前提として、成功の定義を明確に定めていない企業が非常に多いように感じます。売上規模は10億円で良いのか、あるいは100億円を目指すのか。既存のアセットを活用するのか否か。そうした基準を決めないまま、プロジェクトを進行させているケースが散見されます。まず「成功とは何か」を定義することが、すべての出発点になると言えるでしょう。大谷:私は、コントロール可能なKPIに対して、優れた嗅覚を持つ方がリードすると成功の確率は高まると思います。KPIを改善する具体的な手段を熟知しており、数字に対する鋭い感覚を持っていることが重要です。逆に、明確な意図なくKPIを設定している、金額的な感覚が乏しい、という方が推進役になると、事業は失敗しやすい傾向にありますね。橋本:「失敗しやすい」という点で、事前に「このプロジェクトは失敗しそうだ」という兆候を感じ取ることはありますか。大谷:収益化への意識が低い方は、お話をしていて分かります。社会課題に対する思いは非常に強く、その点は素晴らしいと感じる一方で、事業として利益を出すという視点が抜け落ちている場合があります。収益性がなければ、社会課題を継続的に解決していくことは困難ですね。橋本:私自身は、大前提として「市場選択」をかなり重視しています。この点についてはいかがでしょうか。安達:おっしゃる通り、事業の成否の8割は市場選択で決まると言っても過言ではありません。例えばスポーツの分野で年収1億円を目指すのであれば、競技人口や市場規模の小さいスポーツを選ぶべきではないでしょう。どの市場で戦うかを決定する段階で、勝負の大半は決しています。大谷:まさに同感です。市場とその参入タイミングが極めて重要になります。市場に勢い(モメンタム)がある時期を見極め、迅速にプロダクトを投入しなければ、大きな潮流には乗れません。チームがその市場に切り込んでいけるスピード感で動けるかどうかも含めて、市場選択だと捉えています。作る前に市場と勝ち筋を決める、確度を上げる事業仮説の立て方橋本:新規事業の成功確度と速度を上げるための取り組みについてもお伺いしたいのですが、安達さんは特に意識されていることはございますか。安達:事業の目的に対してその市場が適切か、そしてその市場で勝ち筋を構築できるか、という点を最初に明確にします。例えば売上目標を達成するために、「どのような顧客の、どんな課題を解決するのか」というサービス・製品の骨子を考えます。そこまで具体化できれば、おおよその市場規模が試算可能になります。その市場で何%のシェアを獲得すれば目標売上に到達するのか、市場でトップになる必要があるのか、あるいは5%や10%のシェアで十分なのかを考えます。そうした議論を踏まえ、トップを目指すのであればどのようなケイパビリティ(組織的能力)が必要で、それを自社で実現できるのか、という点まで含めた「勝ち筋」の仮説を最初に立ててしまいます。橋本:そのプロセスは、プロダクト開発と並行して進めるのでしょうか。安達:いいえ、開発に着手する前に行います。私たちはこれを「事業仮説」と呼んでいますが、その事業仮説で目標達成が可能かどうか、まず確度30〜40%程度の解像度で構築してしまう、というイメージですね。橋本:大谷さんはいかがでしょうか。大谷:安達さんの市場規模の視点とは少し異なりますが、我々は「作らずに売る」「売れてから作る」というアプローチをしばしば採用します。具体的には、営業資料やLP(ランディングページ)を先行して作成し、「現在開発中で、◯月にリリース予定です。今ご契約いただければ特別価格でご提供します」といった形で提案活動を行います。お客様に支払い意思があるかどうかを、開発前に確認しにいくわけです。「欲しい」「あったら助かる」というニーズと、「実際にお金を支払って購入する」というコミットメントの間には、非常に大きな隔たりがありますからね。変数を減らし、価値を定量化する、プロダクト開発前にやるべき2つのこと橋本:先ほどのテーマにも関連しますが、「最初は無料で提供する」というアプローチもよく見られます。これまでの議論を踏まえると、無料提供は避けるべきなのでしょうか。安達:本質的には、「何を検証したいのか」という点に尽きます。サービス価値の有無やその大きさを把握したいのであれば、実際に価格を設定して販売してみるのが有効な手法です。一方で、例えば「1万円の価値がある」ことは既に分かっており、製品が技術的に本当に機能するかを確かめたいフェーズなのであれば、無料での提供も選択肢になり得ます。検証したい目的によって、採るべき手段は変わってきます。橋本:なるほど。事業仮説が明確な場合、利用価値の検証と支払い意思の確認がセットで見えているケースもあると思います。しかし、実際には両方を検証すべき場面が多いと思いますが、その場合はどちらを優先すべきですか?安達:基本的には、価値の大きさを先に確認すべきですね。そのサービスに対して顧客が月々1万円を支払うのか、あるいは100円なのかは、開発前に把握しておくことが望ましいです。収益化に1万円が必要にもかかわらず、100円の価値しか認められないものを開発し続けても事業として成立しません。「これを実現できれば1万円を払ってもらえる」という確証を得た上で開発に入るほうが、手戻りを大幅に減らせます。私が推奨しているのは、2点を開発前に確定させておくことを勧めます。「何に価値があり、何を実現すれば対価を支払ってもらえるのか」と、「その対価は1万円なのか10万円なのか」です。そうすれば、リリースした製品に対して支払いが行われなかった場合、価値自体は既に検証済みですから、原因は「製品そのものに問題がある」と特定できます。このように変数を減らすことが、成功確率を高めるうえで非常に重要になります。橋本:逆に、意図せず変数を増やしてしまうケースも多いのではないでしょうか。安達:ええ、非常に多く見られます。会議を重ねるごとに検証すべき変数が増えていくのです。事業領域や顧客を絞り込むことも同様ですが、事業立ち上げに不慣れな方ほど、変数は減らすべきでしょう。特に、決済手段を増やしたがる方は多いですね。最初はカード決済のみで十分なはずが、後払いや現金払いを導入しようとするのです。チャネルが増えれば売上も伸びると考えがちですが、決済手段をいくら増やしても、誰も利用しないという事態は往々にして起こります。現金決済のオペレーション構築も大変ですから、最初は絞り込むのが賢明ですね。橋本:サービス価値という点では、BtoB SaaSにおいてROI(投資対効果)で価値を示すのは定番のアプローチです。そのROIがプロダクトで実際に実現可能かどうかの検証は、どのタイミングで実施されるのでしょうか。大谷:BtoB SaaSに限定した話になりますが、私はお客様に「全メンバーがこのシステムを利用すれば、この効果が得られます」と約束し、1ヶ月後や数ヶ月後に実際に効果が出ているかを確認します。利用率もデータで可視化できるため、効果の有無は継続的にモニタリングしています。安達:それはソリューションを検証する王道的な手法だと思います。ただ、開発のリードタイムもコストもかかります。そこでおすすめしたいのが、「オズの魔法使い」と呼ばれる手法です。これは、プロダクトが提供するはずのアウトプットを、裏側で人間が手動で生成するのです。例えば、課題を可視化するダッシュボード製品であれば、最初は人間が裏でデータを収集・分析してExcelでダッシュボードを作成し、週次で顧客に提供します。ユーザーにとってはプロダクトを利用しているのと同じ体験になりますが、その裏では人間が作業を行っている、という状態です。これを実践することで、本格的なプロダクト開発の前に価値の検証を完了させることができます。質疑応答Q:「成功の定義を明確に定めていないと失敗しやすい」というお話がありましたが、売上以外の成功の定義は、具体的にどのように設定すればよいのでしょうか。安達:最も多い指標は売上ですが、それと並んで重要なのがビジョンです。「なぜこの事業を立ち上げたのか」「どのような社会を実現したいのか」、という創業時の思いを言語化することが、成功の定義を形作るうえで不可欠だと考えています。大谷:ビジョンに近い観点ですが、どのくらいの規模のユーザーにサービスを届け、価値を感じていただきたいか、という点が一つの軸になるでしょう。橋本:複数のプロダクトを持つ企業にとっては、バリューチェーン全体への貢献度も重要な視点だと考えます。例えばWordPressは、Automattic社がオープンソースとして世界に公開していますが、同社自体はスパムフィルターの販売で収益を上げています。WordPressを無料で提供することがバリューチェーンに貢献し、結果としてスパムフィルターの販売につながるという構造を構築しているのです。Q:「市場選択が8割」というお話について、プロダクトを先に考えてから市場を見るのか、市場を見てからプロダクトを考えるのか、どちらが成功につながりやすいでしょうか。大谷:大きな事業を創造しようとするならば、市場からアプローチする方が確実性は高いでしょう。ただし、最初から市場性のみを追い求め、ご自身が情熱を傾けられない分野に参入しても長続きはしません。起業は忍耐を要する時間が長く、様々な困難の中でペースを維持し、立ち続けられるかどうかが重要になります。覚悟を持って取り組める領域で、かつ有望な市場を見つけることが理想的ですね。安達:基本的には市場から考察するのが王道と言えます。しかし、「この人の課題を解決したい」という人物起点や、「この課題を解決したい」という課題起点、あるいは「この製品を作りたい」という製品起点など、どの入口から始めても構わないと考えています。重要なのは、どの入口から始めたとしても、自社が戦う市場を定義する必要があり、その市場が事業の成否の8割に影響を与えるということです。連続起業家(シリアルアントレプレナー)のように2回目、3回目となると市場から入るケースが多くなりますが、初めて起業される方は「これを実現したい」という強い動機に基づいていることが多いため、市場分析から入ると情熱を維持しにくいのかもしれません。—------------------「具体的なイメージが固まらず、要件定義が進まない」「ベンダーやコンサルに依頼したが、事業が前に進んでいない」など、DXやシステム開発で悩まれている方は、多いと思います。ホライズンテクノロジー株式会社では、数々のプロジェクトを成功に導いてきた開発のプロが貴社の現場に合わせたロードマップを設計し、運用・改善までを見据えた伴走型支援を行っております。本格的な開発やPoC(概念実証)に進む前段階での、アイデアの壁打ちや気軽なご相談も大歓迎です。まずは情報収集の段階から、お気軽にお問い合わせください。https://www.horizon-cg.com/service1