病院の経営赤字で悩んでいる人の中には、病床稼働率を向上させたい人もいるのではないでしょうか。病床稼働率をはじめとする経営指標を分析して改善すると、病院経営を安定させることができます。

そこで、病院経営の指標となる病床稼働率について解説します。病床稼働率の定義や計算方法、改善のコツについて説明しているので、ぜひ参考にしてみてください。

【目次】

病床稼働率とは？

病院の経営状況を確認するための経営指標にはさまざまあります。中でも、目安となるのが病床稼働率です。ここでは病床稼働率の概要や計算方法について見ていきます。

病床稼働率の概要

病床稼働率とは、入院用ベッド（病床）の使用率を示した指標です。病床稼働率は入院収益と関連しているため、病床を有する病院経営において重要な指標になります。

入院設備を有する医療機関は、人件費や設備代などの固定費がかさむ傾向にあります。病床稼働率が低くなれば、経営赤字に陥るリスクもあるでしょう。

病院の病床稼働率の数値は診療科や施設の違いもありますが、目安となるのが80％です。精神科病院や療養型の病院では、患者の治療経過が長期化しやすく、90％弱になります。

病院種類別の病床稼働率の損益分岐点（病院の収益が固定費などの費用を上回る）は以下です。

一般病院　88.2％
ケアミックス病院　84.9％
療養型病院　91.6％
精神科病院　90.0％

近年、病院経営はますます厳しくなり、赤字が続いている施設も少なくありません。健全な病院経営を行うために、病床稼働率はまずは80％を目指すようにしましょう。

病床稼働率の計算式

病床稼働率は、入院患者数を運用病床数で割った値をもとに計算します。具体的な計算式は以下の通りです。

病床稼働率（％）=（入院患者数+退院患者数）／稼働している入院ベッド数×診療日数

病床稼働率の算出では、同日に同じベッドに入退院が発生した場合、2カウントとして計算します。そのため、タイミングにより病床稼働率が100％を超えることも珍しくありません。

また、多くの病院では月間と年間のそれぞれで病床稼働率を算出しています。年間であれば365、月間であれば28～31を「診療日数」に当てはめます。ただ医療機関によっては、厳密に「休診日を含まない診療日」で計算している施設もあります。

毎年の数値だけでなく月単位や診療科ごとに算出することで、病院経営が順調か分析しやすくなるでしょう。

病床稼働率と共に使われる経営指標

病床稼働率は同ベッドの入退院をそれぞれカウントするため、特定の状況下では実情とのギャップが大きくなりやすい指標です。病稼働率の他に別の指標を照らし合わせることで、病院経営が正確に把握できます。

病床利用率

病床利用率は、入院用ベッドの使用割合を示す指標です。病床稼働率と混同しやすい病床利用率ですが、違いは以下の通りです。

病床利用率が高い：空きベッドが少なく、病床が効率的に稼働している
病床稼働率が高い：空きベッドができたときに、患者の迅速な受け入れができている

病床利用率の計算方法は以下です。

病床利用率（％）=入院患者数／（稼働している入院ベッド数×入院診療日数）×100

病院経営の観点からいえば、病床利用率は高い数値であることが望ましいでしょう。しかし、病床利用率が100％の場合では、入院患者の受け入れが難しくなります。

そのため急性期病院では、入院の受け入れ体制を整えるために、病床利用率を90％程度に留めた方がよいでしょう。患者の入れ替わりが多いにも関わらず、病床利用率が高すぎるのであれば、入院ベッドを増床する必要があります。

なお、厚生労働省では病床機能を分析するために、病床稼働率の算出を省き、病床利用率の使用を提言しています。しばしば病床稼働率は許可病床数と数値が近くなるためです。

平均在院日数

平均在院日数は、患者さんの平均の入院期間を示す指標です。平均在院日数は以下の計算方法で算出できます。

平均在院日数=在院患者数／（新たな入院患者数+退院患者数）÷2

平均在院日数は数値が小さいほど、患者さんの入院期間が短いことを意味します。ただ、日本は先進諸国と比べると患者の入院期間が長いといわれています。国内の医療機関の平均在院日数が長くなる要素は、一般的に以下の3つです。

人口当たりの病床数が多い
医療現場の人手不足
急性期と慢性期の入院患者が混在している

特に、医療現場の人材が不足すると、効率的に医療を提供しづらくなります。また日本のように高齢化社会では、急性期と慢性期の患者が混在しやすくなります。結果的に、診療体制が散漫になり、患者の入院期間が延びやすくなるでしょう。

経営指標を改善するための見直しポイント

安定した病院経営を図るには、それぞれの経営指標から問題点を把握し、改善策を取ることが大切です。各指標の数値を改善することで、病院経営がよりスムーズにできます。ここでは、病院の経営指標に基づいた改善のポイントについて見ていきましょう。

ベッドコントロールを改善する

病床稼働率の改善は、病院の収益向上に大きくつながります。病床稼働率と病床利用率を上げるには、まずは具体的な数値目標を掲げましょう。

医療スタッフは社会的貢献へのモチベーションが高い一方で、一般企業よりも経営に関してはあまり意識が高くない傾向が見られます。具体的な数値を掲げることで、現場のやる気が高まります。

特に、病床稼働率と病床利用率の改善で要となるのが、病床管理者です。病棟の入院ベッドの稼働状況はパソコン上で簡単に管理できるようにし、ベッドコントロールの最適化に取り組みましょう。

平均在院日数を引き延ばさない

病院経営の最適化には、平均在院日数に注目する必要があります。

平均在院日数は病院の治療機能を反映した数値です。以下のポイントを押さえて、病院の治療機能を高めることで、平均在院日数の短縮化を図りましょう。

正確な診断をして適切な治療を提供する
在宅を目標にした高齢患者さんのリハビリ支援
退院支援や受け入れ施設との連携

平均在院日数の短縮は、入院・治療・回復・退院までのプロセスを経るため、一筋縄ではいきません。ひとつひとつの問題点をクリアして目標達成に努めていくことが大切です。

クリニカルパスの導入や医療機器の更新を促進する

平均在院日数を短くするには、クリニカルパスや新しい医療機器の導入もおすすめです。クリニカルパスは、特定の治療や検査の標準的な経過をスケジュール表にまとめたものです。

パスの導入により診療を画一化できるため、入院期間が無意味に長くなることを防止できます。また、チームで患者さんに提供すべき医療を共有できたり、患者さんが入院中の大まかな経過を把握できたりするメリットがあります。

また、必要な医療機器は前向きに導入を検討しましょう。医療機器は日進月歩で機能が進歩しています。医療機器の購入にはコストがかかるものの、現場スタッフの負担軽減につながります。

その結果、スタッフの仕事の満足度も上がり、よりスムーズに医療を提供できるようになるため、平均在院日数の短縮につながるでしょう。

集患方法をDX化して患者の数を増やす

病院経営の基本となるのが集患です。院内でさまざまな工夫をこらしても、肝心の患者さんが集まらなければ売上につながりません。近年では、クリニック等の医療機関でも積極的にマーケティング戦略に取り組む施設もあります。

また、アナログ操作が多い医療分野でも、ようやくDX化が進んできました。これまで電話やFAXでやり取りしていたことを電子化すれば、集患にも役立ちます。

例えば、クラウド型の電子カルテを導入すれば、内外の医療機関とオンライン上で患者情報を共有しやすくなります。自院や分院はもちろん、地域の医療機関とも連携が密になることで、入院患者を確保しやすくなり、集患に役立つでしょう。

また電子カルテの導入は、入院患者の受け入れ体制の改善にも役立ちます。患者さんが入院する際は、検査情報から持参薬の種類までさまざまな情報が必要になります。電子カルテを利用することで、患者さんの診療情報を再度確認する労力や手間が省け、医師の診察をすみやかに受けることができます。

入院から診療開始までの時間が短縮されれば、患者さんや家族の満足度が高くなるため、集患力の向上につながるでしょう。

まとめ

病院経営の安定化には、病床稼働率などの経営指標を分析して、問題点の解決を目指す必要があります。特に、集患や現場スタッフの負担軽減のために、医療DX化を進めるべきでしょう。

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